それ行け!小隊長! (対空射撃訓練) | ■ はなとだんなのぼやき帳 ■

それ行け!小隊長! (対空射撃訓練)

EPISODE3(対空射撃訓練)

冬のある日、他の中隊の隊員も引き連れてうちの中隊が主となって対空射撃訓練を行うことになった。射撃場は青森県の六ヶ所村。今でこそ核燃料の再処理工場なんかで有名になっている同村だが、たしか当時六箇所村に入って海に面した射撃場に着くまで湿地帯のような場所を走り、雪もちらついていたせいかひどく寒々しくて人も見かけなかった記憶がある。しかし、今思えばそれは静かな村にどかどかと入ってきてガンガン射撃だけして去っていく無法者(自衛隊)が、少しでも村民を刺激しないようにしようとした隊長の計らいだったのかもしれない。
 ここで対空射撃の要領をかいつまんで説明しておくと、まず使用したのは口径12.7ミリの重機関銃で、砂浜に銃座を土嚢で固定し、この銃座に機関銃を取り付けるのだ。とりつけられた機関銃は上下左右思い通りに動かすことができ、上空のどの方向へも照準が向けられるというわけだ。次に標的だがこれが傑作だった。大きなラジコン飛行機に吹き流しを引っ張らせて、この吹流しに的が描いてあるという具合だ。ここで重要なことは先に述べたとおり銃座からはどの方向へも撃てるようにはなっているが、実際には沖には漁船が結構見えており、当然のことながら漁船のいない区域しか銃口が向かないように工夫する必要がある。そこで銃身を向けることができる左右の限界に長い杭を打って限界にきたら銃身が杭にぶつかるようにしていた。今考えるとかなり大雑把な射撃エリアの規制だ。
 とにかく射撃準備を整えた俺たちはようやく対空射撃をはじめるのだが、これがなかなか当たらない!機関銃弾はリンクでつながれており5発ないし10発に1発の割りで曳航弾(弾の軌跡がわかるようにオレンジ色に光りながら飛ぶ弾)が入っており、曳航弾の軌跡をたよりに射撃方向を修正するのだ。照準は機関銃にくもの巣のような円形の照準器を取り付けて狙うのだが、弾が発射されて的に届くまでに飛行機はかなり移動するから、その移動分を考えて現在見えている的より先のほうへ照準する必要がある。すなわち通常は照準器の中心で照準するところを、くもの巣型の照準器で中央から1つないし2つ外側の照準円のところに的がきた時点で発射するのだ。これがいつもは当然照準器の中央で的をとらえて射撃の訓練をしている隊員にとって、なかなかこつをつかむのがむずかしい。俺も撃たせてもらったが、曳航弾がむなしく吹流しの的の前後を通過してなかなか照準がしぼれなかった。ラジコン飛行機の速さですらあの調子なのだから音速で飛ぶジェット戦闘機を機関銃で打ち落とすのは至難の業であろう。これを行う場合に通常は何丁もの機関銃で弾のカーテンを作りそこへジェット機を通過させるという弾幕方式で落とすといった具合だろう。
 とにかく寒い思いをして青森くんだりまで行った対空射撃は、俺の自衛隊生活の中で結構思い出深い出来事の一つである。
 現在六ヶ所村の射撃場が使用されているのかどうかも不明だが、ああいった対空射撃場は狭い日本ではなかなか作れないだろうと思われる。小銃や機関銃といった小火器は有効射程は数百メートルだが、対空射撃のように最大射角で撃つと数キロは飛んでしまう。日本の内陸部で数キロ四方のエリアを確保するのは非常に困難であろう。従って必然的に対空射撃は海岸から海に向って撃つようになっていたのだろう。(航空自衛隊の対空ミサイルの射撃練習ははるばるアメリカ大陸まで乗り込んで内陸の大平原で行うことを聞いたことがある)